このたび、2009年2月20日に大阪・いずみホールで行ったリサイタル(大阪市・大阪AIS実行委員会主催)を評価していただき、関西の音楽評論家による団体「音楽クリティック・クラブ」より、2009年度「音楽クリティック・クラブ奨励賞」を受賞することになりました。この受賞に寄せたことばを、下記に掲載いたします。
また、この受賞に関する写真付きの記事が、2月1日付けの産経新聞夕刊に掲載されているとのことです。本賞はチェリストの林裕さんとピアニストの佐野えり子さんが受賞されました。歴代の受賞者の方々のお名前を拝見して、身が引き締まる思いです。私は帰国ができず贈賞式には出席できませんでしたが、この場を借りて関係者の皆様に深く御礼申し上げます。
◆受賞のことば◆
このたびは「音楽クリティック・クラブ
奨励賞」を賜りまして、誠にありがとうございます。年末に思いがけず受賞の知らせを受け、しばらくぽかんとしておりましたが、じわじわと演奏会の思い出が甦ってまいりました。あの日はプログラム前半が思うように弾けず、休憩中の楽屋でかなり落ち込んでいたのです。「これではいかん!」と仕切り直し、持てる力を全て出し切ろうと後半に臨んだのですが、終演後は結局、天丼を食べながらひとり反省会を悶々と続けることになったのでした。それでも多くの好意的なご意見やご感想を頂戴し、非常に元気づけられた上、更にこのご褒美です。改めてご来聴いただきました皆様、主催者の皆様、選考に携わってくださいました音楽
クリティック・クラブの皆様に深く御礼申し上げます。このような歴史ある素晴らしい賞をいただいたことは、今後の大きな自信となるだけでなく、これまで応援してくださった方々へ何かひとつ恩返しができたようにも感じ、嬉しい気持ちでいっぱいです。
地元関西、特に生まれ故郷である大阪で演奏活動を展開できることになったのは、「若手音楽家支援事業 大阪アーティスト・インキュベーション・システム(AIS)」のオーディションに合格したのがきっかけです。以来支援対象者として、今回の受賞対象となったいずみホールでの演奏会をはじめ、ソロリサイタル、地域のコンサート、オーケストラとの
共演等の機会を得、多くの舞台を踏ませていただき、経験を重ねていくことができました。この強力なサポートがなければ、私は演奏会をオーガナイズするという途方もない作業を前に、力尽きていたに違いありません。6年来にわたって成長を温かく見守ってくださり、時には厳しい批評・アドバイスをくださった先生方・関係者の皆様、ならびに足しげく公演へお越しくださった聴衆の皆様に心より感謝申し上げます。
ドイツに留学してもうすぐ3年が経ちますが、この数年で体験した出来事、出会った人々の多様さ、大きさは計り知れません。あらゆる事象をすべて記憶することは不可能ですが、留学生活を通して得たものを、意識的に演奏に取り込むことはもちろん、無意識のうちにでもなんらかの形となって自分の音楽に反映されていくのではないかと思うと、わくわくする今日このごろです。そしてまた、毎日をいかに楽しく生きるか、ということが最近のテーマでもあり、一見退屈そうなルーティンの中にも、アイデアとセ
ンス次第で非日常が生まれることに気がつきました。練習に創意工夫を凝らすのと同じくらい、休憩しているときの過ごし方が重要だというのも、特にヨーロッパの文化や生活習慣に触れる中で学んだことのひとつです。一度きりの自分の人生には、自分で選んだ色を塗っていきたい。そう強く望み、明確なビジョンを描き、情熱と行動力を持ち続けることが、私のこれからの目標です。
最後になりましたが、この誉れ高い贈賞式に出席できないことを大変残念に思っております。失礼をお許しください。受賞を機に、ますます研鑽を積み、いっそう精進してまいりたいと思います。今後とも宜しくご指導くださいますよ う、お願い申し上げますとともに、皆様のご健康とご多幸を心よりお祈り申し上げます。
雪の降り積もる北ドイツ・ロストックより
萬谷 衣里